大友山について
 

まず久谷地区は地図で見て分かるとおり、南東北を山に囲まれた扇状地の姿をしている。

北に向かって左側(砥部町の境目)にあるのを「大友山」。東温市に接する右側は山という接尾辞のつかない

尉之城」と呼んでいる。

山に挟まれた長い谷ということから「久谷」の地名が生まれている。大友山(海抜407メートル)は稜線に沿って

砥部町との境を、尉之城(海抜437メートル)は同じく稜線に沿って東温市との境となっている。


この山は、私が子供のころは、「おおどさん」と呼んでいた。それがいつの間にかおおともさん」になり

地元の荏原小学校校歌の2節目でも「山の背やさしき大友(おおとも)の」とうたわれている。

久谷地区 大友山

愛媛のことを伝える古文書である「忽那家文書」や「予章記」の中にも、この山にある城に対する漢字として

大戸城」とか「大堂城」または「大砥城と書いてあり、いずれも最初の二文字の読み方はおおど」以外は考えられない。

予陽郡俚諺集・伊予古蹟史(伊予史談会、昭和62年刊)の133ページに次のような文章がある。

「…又有故城日大友、或日大砥、在干八坂寺西、平岡氏属城也」とあり、発音が同じであれば「おおど」が正しく

「大砥」を「おおとも」読む人は皆無のはずである。

昔の人は漢字に時々自分勝手に当て字を用いたから、上記のように異なる漢字になっている。現在使われている

大友山」の「友」という漢字は、いつ頃正式に使われ始めたのか記録がない。

村史にも出てない。たぶん江戸時代になってから落ち着いた文字になったではないかと想像する。


その他の例として、久谷と久万高原町の境を接する場所を「三坂峠」という。しかし、そこを源流とする川は

御坂川」である。

「みさか」が現在でも2通りに使われている。江戸時代に発行された「四国遍礼名所図会」には「見坂峠」となっている。

(下図の左端参照)

 

さて、日本では「山」の呼称は「さん」と「やま」が混在する。「岳」は意味が違うのでここでは省く。

「さん」の主なものに「ふじさん」「おんたけさん」「はっこうださん」「こうやさん」などがある。「やま」は「大江山」「茶臼山」

「霧島山」など。 

「さん」と「やま」の違いは、「さん」には神様が祭られている。「大友」にも神様が祭られている。

したがって、語尾につくのは「やま」ではなく「さん」が正しい。

 

余談だが、以下の論はあくまで私説であることをお断りする。

平安時代ごろからだろうか、自分より年上、身分の高い方などに対しては敬称である「(さま)」を使った。

「かみさま」「ほとけさま」「大臣さま」「殿様」「御台所(みだいどころ)さま」「おとうさま」「おにいさま」

など。これが次第に訛って「さん」になっていく。「かみさん」「ほとけさん」「とのさん」「おとうさん」のように。

山の「さん」もかっては神様が祭られていたわけだから、尊称の「さま」がついていたのではないか、と思う。

おおどさま」である。それが時代を経ながら「おおどさん」になったと思う。

 

尉之(の)城について

この山に対する正式な「山」とか「さん」の付く名前を聞いたことがない。子供のころからここは「尉之(の)城

(じょうのしろ)呼ばれている。

ここにある山城に使われている漢字は尉之城以外に、丈の城、除の城、徳川城などがある。

尉の城の遠望(中央の山) 登山途中の案内標示


この山はもともと久谷地区の地頭であった土岐氏の本城である。居館は「新張城」または「新張さん」として知られる

ものが今も掘割とともに存在する。
 
さて、なぜこの山が「尉の城」と今も呼び続けられているのか、少々想像をたくましくしてみたい。

日本の古来の役職として武人の役(兵衛府と衛門府)では、将(かみ)、佐(すけ)、尉(じょう)があった。

従六位下 の官位として、和泉守、伊賀守、志摩守、伊豆守、飛騨守、隠岐守、淡路守、壱岐守、対馬守など受領名以外に、

左衛門大尉(だいじょう)、右衛門大尉(ともに衛門府)、主馬首しゅめのかみ、勘解由判官(かげゆほうがん)がある。

正七位上 左衛門少尉、右衛門少尉(ともに衛門府)
正七位下
左兵衛大尉、右兵衛大尉(兵衛府)
従七位上
左兵衛少尉、右兵衛少尉(兵衛府)


もしかして土岐氏も室町(もしくは鎌倉)時代に幕府から従六位下の左衛門大尉・右衛門大尉からその下の従七位相当の

左兵衛少尉、右兵衛少尉あたりの官職をもらったために「土岐左兵衛少尉(ときさひょうえだい・しょうじょう)」などと

名乗ったか、または自称したか。

「大・少尉さまの城」が短くなって「尉さまの城」。そして「尉の城」になったと考えるのは不自然だろうか。

なお、土岐氏は戦国時代は勝手に「土岐山城守」と自称している。

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